2014/03/19

メタリカ vol.9 『Master Of Puppets』もしスラッシュメタルのマネージャーがドラッガーを読んだら



前作『Ride The Lightning』の話題はメジャー界隈にも届き、遂にメタリカにもメジャー契約の手が伸びてくる。メタリカの噂を聞きつけたエレクトラレコードのマネージャーは彼らのショウを見てその場でこれはいけると確信したというが、そのショウはバンドにとっては最悪の出来映えのものだったらしい。とにかくメタリカは『Ride The Lightning』のツアーの合間にもはやくも曲作りに入っていき、このアルバムを完成させてしまうのである。
このアルバムの素晴らしさについては今更言う程のこともないのでできるだけ簡単に説明すると、とにかく音が良くて、曲はメロディに溢れていて叙情的で、スラッシュメタルのみならずより大きなヘヴィメタルとしての名盤となったアルバムである。今回のエントリーでは内容ではなくその構造的な部分に焦点を当てていくが、メジャーレーベルと契約したメタリカはバンドのことは全てバンドで決めるということをやめ積極的に外部の意見を取り入れるという方法を取り始めていることに注目したい。アルバム作品によってその度合いは違うとは思うが、少なくともブラックアルバムやSt.Angerにも外部の意見がおおく取り入れられていると考えている(別の投稿でまた書きたい)。メタリカがマネジメント契約を交わしたQプライムという会社は超敏腕のマネジメント力を誇っており、多くの著名バンドから無名なバンドまでがお世話になっている。彼らのやり方は、どんなバンドにも全力投球で力を注ぎバンドの良さを最大限まで発揮させるやり方を見つける。後に公開された映画「メタリカの真実」でもメタリカのそばに精神面への助言を行うポジションの人物がいたのを疑問に思わなかっただろうか?あのような形でバンドの力を最大限発揮させるためにこのアルバムでも方向性を決めるにあたりマネージメントの力が大きく作用している。つまり、このアルバムをどのような位置づけとして売るのが最大のパフォーマンスを発揮するのかということが考えられているのだ。
マネージャー「『Ride The Lightning』をもっとメジャーで聴けるサウンドで作りなおせばいけるんじゃね?」
辿り着いた答えはアンダーグラウンド向けではなく、メジャーフィールドで戦えるためのサウンドと楽曲を揃え従来のスラッシュメタルから更に上の次元へとステップアップすることだったんじゃないだろうか。前作のような歪みまくったギターサウンドはここには無い。かつてのヤングギターで説明されていたように、ギターサウンドは"クランチに毛の生えた程度"の歪みであり、ダウンピッキングの鋭さとギター本体のボディの鳴りを重視して切れ味のあるサウンドを作り出した。ドラムは非常に重厚でバンドアンサンブルのそれぞれの楽器は完全に分離されている。それはスラッシュメタルというにはあまりにも綺麗に整えられたサウンドで、はっきり言ってしまえばオーバープロデュースなものだった。楽曲の合間にはSEのようなドラマチックな効果音も導入され、ゆっくりメロディを聞かせる曲も増えた。このような大きな変化はエクストリームなサウンドを求める旧来のコアキッズたちからは批判の的となったが、多くのリスナーは好意的に受け止めメタリカはより大きな客層を取り込んでいく事に成功するのである。時代が産業ハードロックに飽き始めたという追い風もあっただろう。
彼らは想像力が枯れてしまったりDIYを諦めたからこのようなやり方をとったのではなく、自分達もいつまでもバンドがスラッシュメタルとして活動していくとは考えていなかったようだ。常に悩み、考えていた。それ故に経験のある者とタッグを組んだ。下手にプライドを持っていたりするとなかなかこういった行動がとれずに自滅していくのだ。その答えが『Master Of Puppets』だったのではないだろうか。これはアンダーグラウンド時代のメタリカをメジャー向けに再構成した集大成なのだ。その証拠にアルバムの楽曲そのもののアイデアはRide The〜のときとほとんど変わっていない。Kill 'em〜かたRide The〜に飛躍したほどのアイデアはここでは生まれていないのである。つまりMaster〜はスラッシュメタルの"サウンド改革"に過ぎず、本当の"スラッシュ革命"はRide The〜で既に起こっていたということなのだ。
話がそれたが、今回の作品から得られる教訓は以下である。

・外部の意見を取り入れる
多くのバンドは自分達のことを客観的にみれていない。バンドとマネージメントのミーティングの場を何度も持つことによってバンドは自分達の良さ(価値)を再認識できる。
バンドのビジョンを共有できる人物だったらマネジメントを任せてバンドは曲作りと演奏に集中するのも良いと思う。自分の持てる時間は有限だ。

・サウンド自体は聞きやすいミックスにしている
「アンダーグラウンドの帝王」とも言われたが彼らはアンダーグラウンドには固執していない。むしろ音楽性を変えずにより多くの人に聴かれるためにはどうしたら良いかを考えた。またスタジオでの時間も増えたためミュージシャンシップも生まれていた。自分をより売り込むために、せめてその商品の見た目を整えようということ。

・重さや激しさを表現するために必ずしもBPMは必要ない
速さを捨てた事によりその後のブラックアルバムの基となる要素が現れ始めている。曲を遅くすればそこにメロディを生む余地が生まれる。何かに特化した要素が別の何かの成長を阻害していることもあるということ。

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